「乗合自動車の客」(横溝正史)

一転して事件が現れ、終わる

「乗合自動車の客」(横溝正史)
(「横溝正史探偵小説コレクション①」)
 出版芸術社

「横溝正史探偵小説コレクション①」

いつものように鎌倉行きの
乗合自動車に乗り込んだ「私」。
そこには
普段の常連客が一人もなく、
知らない顔の先客が。発車寸前に
乗り込んできた「男」は、
なぜか「私」が一ヶ月前に遭遇した
交通事故を知っていた。
そのとき「先客」が…。

今世紀に入ってから、
横溝正史の未発表作品が次々に
掘り起こされたのは喜ばしいことです。
本作品もまた本書・出版芸術社の
「横溝正史探偵小説コレクション」に
収録されることにより、
再び陽の目を見ることができました。
わずか6頁、登場人物3名だけの
小品ですが、
横溝らしさが漲っています。

【主要登場人物】
「私」
…終電車に乗り遅れ、
 度々乗合自動車を利用している。
 一ヶ月前に交通事故に遭う。
「男」(絹糸銀二)
…乗合自動車に乗り合わせた客。
 「私」の交通事故を知っていた。
「先客」
…「私」よりも先にその日の
 乗合自動車に乗っていた客。

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今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
偶然か必然か、非日常の舞台

「私」はいつものように乗合自動車
(おそらくはバス)に乗り込むのですが、
常連客は一人もいなかったのです。
かわりに乗り合わせたのは
「先客」と遅れてきた「男」。
何かが起きそうな
おどろおどろしい幕開けです。
これはたまたまその日の宵に
激しい雨が降ったために、
多くが深酒しなかったのが
原因だったのですが、
偶然なのか必然なのか
判然としないところが
横溝らしいところです。

本作品の味わいどころ②
謎の「先客」にはどんな役割が

「私」と「男」の二人だけでは
事件は始まりません。
前半部はしたがって、
二人の酔客のたわいない
会話のようにしか感じられません。
鍵を握っているのが「先客」です。
さりげない場所にキーマンを潜ませる、
それも横溝作品の特徴でしょう。

本作品の味わいどころ③
一転して事件が現れ、終わる

その前半部ではまったく存在感のない
「先客」が、密かに進行していた
「事件」を表面化させ、
そして解決していきます。
「男」は意図的に「私」に近づき、
「私」からある情報を
得ようとしていたことが明かされます。
その「事件」とは、阿片の密輸。
なんとも大がかりの事件が
隠されていたものです。
そのトリックも秀逸です。

横溝正史ファンでない方にも
薦められるかと問われると、
返答に窮するのですが、
味わいのある作品であることは
間違いありません。
興味のある方、ぜひご賞味ください。

「横溝正史探偵小説コレクション
  ①赤い水泳着」
収録作品一覧
一個のナイフより
悲しき郵便屋
紫の道化師
乗合自動車の客
赤い水泳着
死屍を喰う虫
髑髏鬼
迷路の三人
ある戦死
盲人の手
薔薇王
木馬に乗る令嬢
八百八十番目の護謨の木
二千六百万年

(2018.1.8)

PexelsによるPixabayからの画像
おどろおどろしい世界への入り口

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